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超マニアック!土を愛する大学生が「土質力学の父」に時空を超えて手紙をしたためてみた

みなさん、ご存知でしょうか? 今日11月28日は「いい地盤(1128)の日」です。地盤と言ってもピンとこない人が多いかもしれませんが、家やビル、橋といった、私たちの生活に欠かせない構造物は多くの場合、その下の地盤が支えています。どんなに強い構造物を作ったとしても、その下の地盤がゆるゆるでは、構造物は不安定になってしまいます。今回は、この地盤についての土木偉人を紹介したいと思います。

申し遅れました。私は京都大学で地盤の研究を行っている修士1年の江城静順(えしろしずか)と申します。自宅で土の実験をしてそれを本にして販売したり、月に一回地盤や土壌、地質を熱く語る「土を語る会」を開催するなど、とにかく土を偏愛しています。

自宅でできる土の実験をまとめた本を発売!
毎月Twitter Spaceで行っている「土を語る会」


「土質力学の父」の略歴


土木偉人かるた絵札 カール・テルツァーギ

今回ご紹介する土木偉人は、カール・フォン・テルツァーギ(Karl von Terzaghi)です。テルツァーギは、1883年10月2日、当時オーストリア=ハンガリー帝国のプラハ出身の土木技術者です。第一次世界大戦でオーストリア軍に従軍した経験を持ち、1938年にアメリカへ移住し、市民権を獲得。ハーバード大学で教授を務め、1963年アメリカで亡くなります。

そんなテルツァーギは、地盤の強度や透水性などの理論を扱う「土質力学の父」と呼ばれている偉大な方なのですが、このテルツァーギ先生への私の思いを、先生に宛てたお手紙の形式でしたためようと思います。

拝啓 テルツァーギ先生

そろそろ地盤の凍上を気にするべき季節となってまいりました。
はじめまして、私は江城静順と申します。京都大学で地盤工学、特に不飽和土に関しての研究を行っている修士1年の学生です。

この度お手紙を差し上げるに至ったのは、先生のご功績に、改めて感謝申し上げたいと考えたためです。土質力学・地盤工学の基礎を築いた研究者・技術者には古くから現代まで様々な方がいますが、先生はその中でも最も有名な人物のおひとりでしょう。

例えば先生は、有効応力という概念の提案、1次元圧密を理論的に表現した圧密方程式、浅い基礎の支持力を算出できる支持力式といった理論の構築など、多岐にわたる成果を挙げていらっしゃいます。現代の実務にも先生の功績が大変生かされておりまして、我々はみな、先生のことを「土質力学の父」とお呼びしています。つきましては、先生に改めて感謝申し上げるべく、以下私の思いのたけをしたためます。

まずやはり、「土質力学」という学問をこの世に生み出して下さったことを、心より感謝しております。先生が「土の物理学的基礎に基づいた土質力学」(Erdbaumeechank auf bodenphysikalischer Grundlage)を出版されたこと、これがこの現代にも続く土質力学の誕生と考えられています。先生のおかげで私は大学の授業で土質力学という学問を学ぶことができ、そして土という身近でかつ奥深い材料の沼にはまりました。

先生が「土質力学」を作られるまで、クーロン土圧などの個別の地盤問題に対する理論はあったものの、それらは体系的ではなく,設計で使えるような計算可能な理論はまだ少数でした。そこに膨大な実験結果から「有効応力」という、近代土質力学には必要不可欠な革新的な概念を導入し、土のふるまいを計算可能なものとされました。

有効応力は、つぶつぶの集まりである土がその構造を維持するための力を表す概念であり、これにより、いくつかの前提条件の下で土の変形量を予測できるようになりました。この有効応力という概念は、基本的に材料内に水(や空気)を含み、しかもその水が排水し、簡単に骨格が変形しうる土(せいぜい粒状体)にしかない特異な概念です。例えばコンクリートやゲルなども粒子と水を含みますが、固化後のコンクリートは簡単には粒子構造が変化しませんし、ゲルは変形しますが簡単に排水しないため、有効応力という概念はあまり意味を持ちません。

ここに土という材料の面白さがあると私は考えます。土粒子・水・空気を含む複雑な三相構造であるうえに、容易に排水し、しかもその挙動は水の量や土の種類によってさまざまに変化するのです。なんと難しい材料なのでしょうか!このようなふるまいを示す材料において、粘土を題材に計算可能な理論を開発されたことはまさに偉業です。一方で、先生もこの土の複雑性に頭を悩ませていたと伺っています。

「不幸にして土は自然が作ったものであって,人間が作ったものではない。そして自然の産物は常に複雑であり,アプローチの方法は根本的に変えなければならない。」

「我々が鋼やコンクリートから一歩足を土に踏み入れると,理論の全能は存在しなくなる。第1に土は自然状態で決して均質でない。第2に,その性質は厳密に理論的に取扱うにはあまりに複雑すぎる。最後に,何か最も普通の問題について,近似的な数学解を得ることすら極めて難しい。これらの三つの要素のために,土を含む問題の数学的取扱いが成功する可能性はきわめて限られたものである。」

斎藤迪孝:K .Terzaghi (テルツァーギ), 土と基礎, 31(11), pp. 43-50, 1983

本当に難しい材料ですね。しかし、なんと興味深く、立ち向かうに歯ごたえのある材料でしょうか!このような考えに至ることができたのも、先生が「土質力学」を創設してくださったからです。本当にありがとうございました。

私が先生を敬愛する2つ目の理由は、研究者であるとともに技術者であること、そして理論の構築と実現場の観察をどちらも同様に重視し、そのお考えを実践されていたことです。

先生は、研究者・技術者どころか哲学者、エッセイスト、開発者、コンサルタント、軍人、ドリル技師、などと多岐にわたる仕事を経験されてきました。しかもそれらの経験を余すことなく地質・土質の知識のアップデートに活用されているのは、先生にしかできないことだと思います。若いころから地質学に深い興味を持たれ、趣味の登山や旅行ではその地域の地質の観察を楽しまれていたそうですね。

その一方、純粋地質学の記述だけでは工学的な決定をする根拠にならないと、地質と土質を結び付けるにはどうすればいいかを常に考えてこられました。これは今でいう応用地質学でしょう。大学教授となられた後も、地質構造がどうなっているのか?地盤の変形や水の浸透は何が原因で生じ、被害が大きくなるのか?ということに興味をもって観察を行い、そのうえで答えの必要な実務目線で理論を構築したり、対策・設計をされたりしています。これは、人々の安心・安全・快適を作る土木技術者の鑑であると思います。そういった確かな経験と強い思いから紡ぎだされたお言葉は、現代の土木技術者・研究者に深い示唆を与えてくれます。

「理論というもの、特に非常に正確な理論は、我々が観察したものを正確に解釈できる能力を鍛え、発展させるために必要です。しかし、同時に我々は、理論だけでは土工工学の分野では何も成就することはできません。(中略)鋭い観察が、少なくとも鋭い分析と同じほどに必要です。」p. 135

「試験の究極的な目的に向かう探求的な姿勢を失ってはならない。さもなければ、調査は習慣へと退化する。」p. 212

土質力学の父 カール・テルツァーギの生涯 -アーティストだったエンジニア-

特に私が尊敬するのは、理論と観察の両者の重要性を感じていらっしゃるからか、構築した理論を説明する際に観察結果に基づく背景を教科書に記述されていることです。土は複雑であるため、近似式や経験式が多いのは仕方がないと思います。しかし先生は、その式にどんな意味を持たせているのか、実務的にどんな要請があるからこういう式にしたのか、その妥当性は?といったところまで書き残していらっしゃいます。後世の地盤工学を学ぶ一学生としては、式の意味や適用範囲を踏まえたうえで理論を学べることが本当にありがたいです。

先生が土圧の研究の際、「個々の粒から砂は成り立っている、という基本的な事実から再びスタート」されたように、最近ではX線CTによる観察やDEM(個別要素法)によるシミュレーションを用いて、土粒子・間隙スケールの挙動、力学からマクロの挙動や力学理論を推定したり構築したりする研究が行われ始めています。私は先生方が構築されてきた土質力学を土粒子・間隙スケールから解釈し、複雑で不確実な土をより深く理解したいと考えています。先生が創設した「土質力学」の行く末をどうか暖かく見守ってください。

X線CTで撮影した不飽和の豊浦砂供試体

敬具

2022年11月28日(いい地盤の日)
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻
修士1年 江城静順

参考文献


著作者:江城 静順(えしろ しずか)
プロフィール
不飽和の土とつぶつぶの粒子が好きな学生です。この前は夢の中で土の事を考えていました。平安時代の考え方では、夢に人が現れるのは、その人が自分のことを想っているからなので、私と土は相思相愛ということになりますね。

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